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2011.12.03 Saturday
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journals and records to stay the way you are.....
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part.2
手をつなぎ横断歩道渡りゆくおじさんと僕行き交うヴァイブ
仕事帰り、
歩いて麹町の交差点に差し掛かると
歩道脇の電柱に寄りかかっているおじさんがいた。
とても体調が悪そうに見えたので
ヘッドフォンを外して声をかけると、
「私は神経の病気で体の震えが止まらないんです。」
「横断歩道を渡りたいのでどうか助けてください。」
そう言ったおじさんが、
もたれかかっていた電柱から手を離した途端、
おじさんの全身がガタガタと激しく震えだした。
「大丈夫ですか?」
と僕が声をかけると、
「手を握ってください。」
とおじさんが言うので、
「この人は同性愛者で、僕は誘われてるのかもしれない。」
という考えが一瞬頭をよぎったけれど、
僕は結局おじさんの手を握った。
不思議なことに、僕が手を握ると、
おじさんの全身の震えがピタッと止まった。
何かに触れていないと全身の震えが止まらない
という神経の病気があるのかどうかは知らないけれど、
ひょっとしたらこの世にはそんな病気があるのかもしれない、
とその時僕はそんなことを考えていた。
手をつないで信号待ちをしている、おじさんと僕。
決して変な意味ではないが、
僕はその間なんだかとてもドキドキしていた。
後ろから追いかけてきた会社の同僚に
もしこの状況を見られたらどう思われるのだろうか?
という心配のようなドキドキ感も多少あったが、
それよりもなんだか、
(それがたとえおじさんであっても、)
誰かと手をつないで信号待ちをしている、
というその状況になんだかドキドキしてしまった。
(のだと思う。)
そして、
「おじさんの体が横断中にまたガタガタ震えだしたらどうしよう」
というドキドキも感じていた。
程なく信号は青になり、
僕とおじさんは短いその横断歩道を、
手をつないでゆっくりと、時間をかけて渡った。
横断途中でキャリアウーマン風の女性が僕たちに、
「大丈夫ですか!?」
と声をかけてきたが、僕もおじさんも、
「大丈夫です。」
と同時に言った。
横断歩道を渡りきると、おじさんは
「タクシーに乗りたい」
と言った。
タクシーを止めるためにおじさんの手を離すと、
その途端におじさんの全身がまたガタガタと震えだした。
慌てて手をつなぐとおじさんの体の震えは止まったので、
僕はおじさんの手を握ったまま、タクシーを止めた。
おじさんは僕の手を離し、
体を震わせながらタクシーに乗り込んだ。
ドアが閉まる寸前におじさんは僕に向かって
「ありがとう。」
と震えた声で言った。
おじさんを乗せたそのタクシーは、
車体を小刻みに震わせながら、
新宿通りを皇居方向に走り去っていってしまった。
タクシーが夜の闇に紛れて見えなくなった後も、
その震えるおじさんの事が頭からしばらく離れなかった。
おじさんはタクシーでどこに向かったのか。
今頃また誰かと手をつないでいるのだろうか。
僕の手にはおじさんの手の感触だけが鮮明に残った。